志水辰夫さんの『みのたけの春』読了。
この作品の一番のすばらしさは『みのたけの春』というタイトル。
まさにこの作品にこれ以上のタイトルはないだろう。
骨太なのに細やかな筆致で情景を映し出し,何組かの親子・兄弟姉妹の生き方を通して,人はどう生きるべきなのかを考えさせてくれる作品。
「毎年毎年繰り返されている春。それがいままた目の前にある。
この風景のなかに,自分のすべてがあるといまでは思っている。すぎてみれば,人の一生など,それほど重荷なわけがない。変わりばえのしない日々のなかに,なにもかもがふくまれる。大志ばかりがなんで男子の本懐なものか」
とくに「大志ばかりがなんで男子の本懐なものか」という言葉。忘れられない言葉になりそう。
この作品が志水さんにとって初めての時代小説。その後『青に候』『つばくろ越え』を発表。その3作とも読んだがどれも気持ちのよい作品だった。すでに『つばくろ越え』に続く『蓬莱屋』シリーズは第2作と3作が発表されている。文庫化が待ち遠しい。
04月05日(木)17時53分|志水辰夫
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志水さんの『みのたけの春』中盤にさしかかりました。読みごたえ十分。
幕末の激動の時代に片田舎に住むが故に,国事に奔走したいと血気にはやる若者たちがいるなか,病気の母を大切にしながらまさに「みのたけ」にふさわしい生き方をしようとする主人公に「春」が訪れるよう応援しています。
いっぽうで不運な友との関係が今後主人公の人生にどのような影響を与えるのか心配にはなります。
この作品の登場人物の数ですが今の時点で34人。歴史小説は多くなって当然ですが,時代小説にしては多いほうだと思います。そこで登場人物や関係をメモしながら読み進めているのですが,それを煩わしいとは感じません。
無駄な人物ではなくみな必然性のある登場だからでしょう。
そういえば「登場人物の多い小説を読むと脳の活性化につながる」という意見を聞いたことがあります。たしかにそうかもしれません。ボーッと読んでいたらたちまちごちゃごちゃになってしまいますから,いやでも集中します。
トルストイの『戦争と平和』の登場人物は559人だそうです。
私も学生時代に読んでみました。ノートに人物名や関係図をメモしながら読んでいくのですが,途中でわけがわからなくなってギブアップ。もう一度挑戦してみたいという気持ちが半分,そうは言ってもまず読むことはないだろうという気持ちが半分です。
04月03日(火)17時39分|志水辰夫
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志水さんの『青に候』一気に読了。
私は読みかけのページには栞やスピンを挟んだりせず,ページの下の角を少し折るのが癖になっている(悪い癖ですが)。その折り目がこの本にも何カ所か付いていた。ということはやはり以前読んでいたということが確定。
一気に読んでしまうほどの面白い作品をおぼえていないとは,う~ん,よほど精神的に読書に集中できない時期だったのだろうか?
「あっ読んだことある」とはっきり分かったのが,ラスト近くのクライマックス。火事で中屋敷から避難した園子を必死で探す主人公の姿。「うんうん,こういう場面あったわ」と納得。
お家騒動という武家社会の不条理を軸にしながら友情と恋愛という青春を描き,さらにその切なさと同時に生きることへの希望を感じさせてくれる。
あの日から1年たった3月11日に,良い作品を読めた。
03月11日(日)13時07分|志水辰夫
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どう思い返しても志水さんの『青に候』の印象がない。
簡単な読書録をつけだしたのが22年の1月からだがそれにはのっていない。発行は平成21年10月1日発行となっているので発行直後に買ったのだろうか。それにしてもそんなに昔ではないのに・・・なぜ?
『つばくろ越え』ほどの作品を書く志水さんが,全く記憶にも残らない作品を書くとは信じがたい。
もしかして読んでないのでは? まさか書棚に置いたまま読んだつもりになってそのままにしておいた?
でもこの表紙絵には見覚えがある。
あれこれ考えても仕方ない。とにかく再読することに。
03月10日(土)14時26分|志水辰夫
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志水さんの『つばくろ越え~蓬莱屋帳外控』読了。
実は『青に候』の印象が全くといっていいほど残っていなかったので,この作品も実はあまり期待していなかった。ところが,これが読みごたえ十分の作品だった。
飛脚問屋蓬莱屋の飛脚たちや主人が登場するのだが,彼らを主役とするのではなく彼らと関わる人々の生き様を描いている。その描き方に志水さんの愛情が注ぎ込まれていて,4編とも心地よい読後感が得られた。
それにしても,これほどの作品を書いた大ベテランの時代小説デビュー作『青に候』の印象が全く残っていないとはどういうことだろう?
03月09日(金)18時43分|志水辰夫
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