吉村昭『暁の旅人』(講談社文庫)
幕末から維新にかけて,日本の医学を発展させた医師,
松本良順を描いた作品。
私はもともと,歴史小説を読んでいましたが,
司馬遼太郎氏の,いわゆる司馬史観に辟易し,
藤沢周平氏の時代小説にはまるようになりました。
吉村氏の作品は,時代小説でもない歴史小説でもない,
史伝というジャンル。

時代小説・・・史実のすき間にフィクションを織り込む。
歴史小説・・・史料に基づいて歴史を語る。
これに対して,
史伝は・・・・フィクションを排し,歴史そのものを再現する。
したがって,史伝は,堅いイメージがあります。
ややもすると評伝になってしまうことも。
そこを,吉村氏は,読者を飽きさせずに,
最後まで一気に読ませる筆力を持っています。
主人公松本良順の魅力と,維新から明治という時代性を,
十分に感じることのできる作品でした。
01月23日(水)21時08分|吉村昭
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吉村さんの作品を初めて読んだのは,もうずいぶん前,
『仮釈放』という作品でした。
つらかった。
人間って,ひとつ歯車が狂うと,自分の力ではどうしようもできない状態にまでなってしまうんだなって,読むほどにつらくなる作品でした。
骨太の作品が多いですよね。読み手に強いメッセージを残してくれます。
この『雪の花』
綿密に史料を検証し,でも,平易に表現してくれていて,決して知識をひけらかすことのない作家魂を感じます。
日本に種痘を広めた町医笠原良策の半生を描いた伝記的作品で,おすすめです。
ところで,私などが子どもの頃に読んだ本といえば,
ほとんどが伝記というか,偉人伝のような本ばかりでした。
『野口英世』や『エジソン』新しいところで『湯川秀樹』
いま,子どもたちは,こういう『伝記』を読んでいるんでしょうか。
すくなくとも,うちの子どもたちは読んでなかったようです…。
ひとつ間違うと,立身出世伝になりかねませんが,
でも,こういう偉人伝を読むことは大切なことだと思うんです。
人のあるべき姿っていうか,社会の理想というか,
それを知らないまま大人になるって,すっごい危険ですよね。
人生の道しるべがないっていうことですから。
大津の事件から,ふとそんなことを感じました。
07月14日(土)21時33分|吉村昭
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