冒頭の場面の咲弥と雨宮蔵人との関わりが読み進むにつれ明らかになっていき,最後にはその冒頭の場面から2人の再生が始まるという構成がうまい。
ただ,水戸光圀,藤井紋太夫,柳沢保明,吉良上野介,熊沢蕃山と有名どころを配置し,さらには助さん・格さん,おまけに八兵衛らしき人物まで登場させたのはちょっと…。
政治権力の道具にされようとなりながらも凜として自分の生き方を貫こうとした2人を描くために有名どころを配置し,その政治権力の大きさと醜さを強調しようとしたのであろうが,はたしてそこまでする必要があったのだろうか。
その結果彼らの人物像が浅くなってしまい蔵人の描き方まで後半は劇画調になってしまった。
葉室さんの筆力なら鍋島本家と小城藩,鍋島家と龍造寺家との確執だけにとどめたほうが深みが生まれたのではなかろうか。
決して悪い作品ではなく十分な読みごたえはあったのだが『銀漢の賦』や『秋月記』ほどの感銘は得られなかった。