24のエピソードを読み進むにつれ「利休の美学」が明らかになっていくのだろうと期待しながら読んでいったが,見事に肩すかしを食らってしまった。これでは『白鷹伝』からの4部作には遠く及ばないただのエピソード集。
確かに「鉄砲作り」や「城づくり」のような「物」を極めるのではなく「美」というきわめて抽象的で,しかも利休のように内面的な美を求めた人を描くのは難しいだろう。美しい絵をいくら文章でうまく書いてもその美しさを伝えることができないのと同じなのかもしれない。
それにしても中盤まではまだ読めたが後半がいけない。あの女性をこの物語の中に登場させた意味が分からない。いったい何を「利休にたずねよ」と言うのだろう。
最初の4部作を読んで,最も楽しみな作家の一人になった山本さんだが,それ以降は読むたびに失望感が広がる。あれだけの作品を書いた人なのに。