この作品の一番のすばらしさは『みのたけの春』というタイトル。
まさにこの作品にこれ以上のタイトルはないだろう。
骨太なのに細やかな筆致で情景を映し出し,何組かの親子・兄弟姉妹の生き方を通して,人はどう生きるべきなのかを考えさせてくれる作品。
「毎年毎年繰り返されている春。それがいままた目の前にある。
この風景のなかに,自分のすべてがあるといまでは思っている。すぎてみれば,人の一生など,それほど重荷なわけがない。変わりばえのしない日々のなかに,なにもかもがふくまれる。大志ばかりがなんで男子の本懐なものか」
とくに「大志ばかりがなんで男子の本懐なものか」という言葉。忘れられない言葉になりそう。
この作品が志水さんにとって初めての時代小説。その後『青に候』『つばくろ越え』を発表。その3作とも読んだがどれも気持ちのよい作品だった。すでに『つばくろ越え』に続く『蓬莱屋』シリーズは第2作と3作が発表されている。文庫化が待ち遠しい。