5編とも『沙(いさご)の波』『暁の波』とすべて波が表題につく。
どの作品も味わいがあるが特に最後の『澪の波』が清々しい。
13歳の少年が主人公というのも時代小説では珍しいが,少年から青年へと成長していこうとするその純粋な心理を巧みに描いている。
安住さんの『日無坂』で,勘当された主人公が父が亡くなる前日に偶然すれ違う場面がある。その場面が実に鮮明に浮かび上がってくる。
今回の5編でも,それぞれの印象的な場面が自然に浮かび上がってくるから不思議だ。平易な文章を丹念に吟味して書き込んでいるからだろう。
『澪の波』でも,最後の少年が走り続ける場面が目に焼き付く。
今後ますます楽しみな作家だ。