佐藤さんの作品はほとんど読んだつもりだったが,シリーズものに目がいってこれらの歴史小説に気がつかなかった。だが待てよ,もしかして「蜂須賀小六」は・・・,やっぱり。
『楼岸夢一定 蜂須賀小六』佐藤さんの作品だったんだ!
もう10年以上前のはず。確かに読んだ。
「歴史小説らしからぬ面白い文体だな」と感じたのをおぼえている。
当時佐藤さんはまだ売り出し中で,佐藤さんだから買ったわけではなく「蜂須賀小六」を題材にしたのが面白そうだったからだ。そのため佐藤さんが作者だったとは今の今まで知らなかった。
「幽斎玄旨」と「信長」は読んでいない。幽斎はともかく信長物はちょっときついなぁ。
『千世と与一郎の関ヶ原』
「関ヶ原を通して千世と与一郎」を描こうとしたのか,
「千世と与一郎を通して関ヶ原」を描こうとしたのか。
前者を期待していたのだが,読後感では後者のようだ。それはそれで面白く書けていた。もし千世と与一郎を登場させなかったら司馬関ヶ原と大差なくなってしまう。
読みようによっては千世と与一郎というプリンセスとプリンスの戦国に翻弄された悲劇ということになるのだろうが,佐藤さんのあっさりとした文体が悲劇を淡々とした風景に変えており「まぁ,戦国の時代なんだから仕方ないよな」という気にさせられる。そこが戦国の戦国たる所以か。
2人の悲劇よりも細川幽斎,忠興,与一郎の3代の生き方・考え方の対比が興味深かった。生きた時代がわずかに違っただけで大きな相違が出たのかもしれない。
佐藤さんが福島正則や加藤清正をアホ扱いするのは当然として,石田三成もこき下ろしているのは意外だった。たしかにこの作品で検証されている史料からみれば将の器ではないと感じざる得ないが,実像はどうだったのだろうか。
ちなみに,我がふるさとの殿様は幽斎が籠もる丹後田辺城攻めに参加するも途中、東軍に寝返った。しかし関ヶ原には遅刻。藤堂高虎のとりなしでなんとか改易を免れている。
関ヶ原に興味は尽きない。