幕末から維新にかけて,日本の医学を発展させた医師,
松本良順を描いた作品。
私はもともと,歴史小説を読んでいましたが,
司馬遼太郎氏の,いわゆる司馬史観に辟易し,
藤沢周平氏の時代小説にはまるようになりました。
吉村氏の作品は,時代小説でもない歴史小説でもない,
史伝というジャンル。

時代小説・・・史実のすき間にフィクションを織り込む。
歴史小説・・・史料に基づいて歴史を語る。
これに対して,
史伝は・・・・フィクションを排し,歴史そのものを再現する。
したがって,史伝は,堅いイメージがあります。
ややもすると評伝になってしまうことも。
そこを,吉村氏は,読者を飽きさせずに,
最後まで一気に読ませる筆力を持っています。
主人公松本良順の魅力と,維新から明治という時代性を,
十分に感じることのできる作品でした。