岩井さんの作品はどれもテンポが良く,しかもこの作品は短編集ということもあってあっという間に読了した。
あっという間だからといって,決して内容が乏しいということではない。むしろ逆。
時代小説の大半は江戸時代を舞台にしている。岩井さんは『一手千両』以外はほぼすべて室町・戦国・安土桃山時代を舞台にしている。しかも登場するのは無名の人物がほとんどだ。ところがそのなじみの薄い時代(特に室町)であるにもかかわらず,まったく違和感なくすっと物語の中に入っていける。
無名の登場人物を身近に感じさせてくれる巧みな人物描写のおかげだろう。
頼りない,でも健気に頑張ろうとする主人公たちを我が身に置き換え応援してしまう。そんな魅力のある作品だった。