安住さんは寡作で,これまで『しずり雪』『夜半の綺羅星』『日無坂』の3作しか文庫化されていないが,3作とも読んでいる。どの作品もじわっとくる読後感が得られる。
この作品は5編から成る短編集だが,今その2編まで読んだところ。
これまでと同様の読後感だ。佳作といっていい。
第1編の表題にもなっている『いさご波』は赤穂藩を浪人した武士の息子が,苦労の末に仕官を果たしたものの安穏な生活を一変させる試練。その時とるべき道は忠義か恩義か。
つまり,武士として生きる(死ぬ)のか,それとも人として生きる(死ぬ)のか。
このテーマは山本周五郎が開拓し,藤沢周平が確立した時代小説というジャンルが追い求めてきたテーマと一致する。
ということは,今ある時代小説は山本周五郎と藤沢周平を抜きにしては語れないということを,この安住さんの作品を読んでしみじみと思わざるを得ない。
偉大なり,山本周五郎,そして藤沢周平。