なにしろ主人公は御膳所御台所人,今は一膳飯屋を営んでいるという設定なのだから。
ところが,その肝心の料理,これがいけない。何が?
以前,何かの本で読んだことがある。店の外まで匂いが漂う『ウナギ屋』と,きれいに匂いを始末し外まで匂わない『うなぎ屋』と,どっちが客が来るか。
答えは『匂い』
料理は匂いが命ということ。たしかにそうだと思う。
ところがこの作品,読んでいてもその匂いがしないのである。
いくら旨そうに書いていても,匂わなければそれは料理としての魅力はゼロ。
『みをつくし』シリーズと比べればその差は歴然。
やはり,主人公がどれだけ苦労してきたかどうかの差だろう。
「旨い」と言わせる料理などそう簡単に作れるものではないはず。そのことを理解せずに安易に料理人を登場させる作品は金輪際読むことはないだろう。