決して面白くないとか退屈するとかいう理由ではない。若だんなや兄やをはじめとした妖たちとの会話や仕草をのんびり楽しんでしまうからだ。
ストーリー展開に追われて急かされるように読む小説が多いなか,この『しゃばけ』シリーズには癒される。
今回は,ちょっと切なくなる物語だった。でもそれが暗くならずにかえって心地よく感じられたのは「クスッ」と笑ってしまう場面がほどよく織り込まれているからだろう。今回はいつも以上に鳴家がいい味を出していた。
ところが『しゃばけ』シリーズはこれほど楽しませてくれるのに,他の畠中さんの作品はどうも楽しめない。『まんまこと』は多分2作目の『こいしり』まで。それ以降は読まないだろう。『若様組』も同様。他にもシリーズ化される作品があるだろうが読もうとは思わない。『しゃばけ』シリーズが良すぎるのか他がイマイチなのか?
『しゃばけ』はファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞しており,ウィキペディアではこのシリーズを「ファンタジー時代小説」と位置づけている。たとえば同じファンタジーノベル大賞で大賞を受賞した『僕僕先生』はファンタジーでもいいと思う。でも『しゃばけ』はファンタジーを取って「時代小説」というジャンルがいいのではないか。
江戸時代の風俗や江戸の町の様子もしっかり考証されているし,何より「この時代には妖は本当にいたんだろう」と思わせてくれる作品だから。